林健さんが現在、浜松駅前で「500円で何でもします」のスケッチボードを掲げ、「何でも屋」をしている。
林さんは現在21歳。高校中退後、いくつかアルバイトをしてきたが、家に引きこもってしまった。親から「仕事をしろ」と言われたがする気がなく、家を出て名古屋の友人宅に居候。何もしないことに罪悪感があり居酒屋のキャッチのアルバイトを始めた。引きこもってしまった時には、1年以上誰とも合わずコミュニケーションを取らなかったため、人と目を合わすことさえできなかったという。
アルバイトで初めて客を案内した際、「ありがとう」と感謝の言葉を掛けてもらえたことがうれしく、自分に自信がついたという林さん。約1カ月間居候を続けたが、親に何も言わずに家出をしたことを悪いと思い帰省。地元に戻り飲食店のアルバイトを始めた。
約2年間働く中で、互いに読んだことのある一冊のビジネス本をきっかけに、当時上司だった2歳年上の和田司さんとの親交が深まったが、和田さんは自分の夢を追い先に退職。その後自身も何かにチャレンジしたいという思いから退職。何をしたらいいか悩み続けたという。
先に退職した和田さんは仕事をやめた頃、庭の草取りに苦労する祖母と、道の草を引き抜いて楽しんでいる小学生を見て、「この立場が逆転したら面白い。好きなことをやりたい人ができるように、人と人をつなげるようなビジネスができないか」と考えた。まずは自らやってみようと、フェイスブックで「何でも屋『HYAKUSYO』」として、500円で何でもする活動を開始。依頼者との富士登山や、サッカーワールドカップの観戦、一緒に買い物するなどさまざまな依頼を受けた。
活動する中でイベント会社の社長と出会い、起業に向けたプロセスを学ぶチャンスを得たという。何でも屋の活動を一時中断していた頃、何もできずにいる林さんを見て、林さんにも何でも屋をしてみたらどうかと提案したところ、林さんもすぐに提案を受け入れ活動を開始。SNSでの募集だけでなく、人通りの多い浜松駅前で11月2日からスケッチボードを掲げている。
「初めは恥ずかしかったが、大声を上げて募集すると周りの注目が集まり、楽しくなってきた」と林さん。初の依頼は高校生6人グループからの「一発ギャグをしてほしい」というもの。盛大に一発ギャグをしたという。次は70代男性から庭木の剪定(せんてい)の依頼。初めての作業で高所が怖かったが、一緒に作業することで依頼主と打ち解けた。
3件目の依頼はベッドの組み立て。これも初めての経験だったが、依頼主と協力して完成。家族とも仲良く作業ができたという。「500円で依頼を受けてきたが、お金はいらないくらいに良い経験ができている。今までしたことのない経験や人とのつながりができた。一緒に何かをすることで信頼や絆が生まれる。とても大切なことだと気づいた」。
現在も次々に依頼が舞い込み、「一緒に釣りをしてほしい」「ゲームセンターでプレーをしてほしい」、ユーチューバーから「コラボしてほしい」など10件以上の予約が入っているという。
「活動を通して、何事でもプラスに捉えられるようになった。引きこもりだった自分がうそのように、自分自身の変化を感じられる」と言い、和田さんも「仕事やアルバイトとは違い、HYAKUSYOという新たな副業のスタイルをつくれたらと考えている。現在は私たちがいろいろな活動をしているが、誰がやってもいいこと。例えばカブトムシを捕りたいという子どもと、カブトムシ捕りの名人をつなぎ合わせるようなことをしていきたい。将来的にアプリを開発し人と人をつなげていけたら」と続ける。
今後も活動を続けていくという林さん。「依頼によって誰かが不幸にならないこと」と、自身の「できる範囲内のこと」を条件に依頼を募集。フェイスブックやインスタグラムのメッセージからも依頼を受ける。