浜松市・元城町の旧元城小学校にあった時計塔が5月10日、浜松中部学園(浜松市中区松城町、TEL 053-454-6406)に移設された。
1873(明治6)年に開校し、140年以上の歴史を持つ浜松で最も古い伝統校だった元城小学校。児童数の減少から、一時は1学年1クラスしかない頃もあったという。昨年3月26日閉校し、近隣の中部中学校と北小学校との3校が統合。昨年4月から小中一貫校の浜松中部学園として新たなスタートを切った。
閉校にあたり、取り壊すことになった元城小学校。地域住民からは反対の声も多く、同校の資産の中で後世に残したいものを移設しようと、校区内の約3000世帯にアンケートを実施。校内に残る施設や設備、備品などをリストアップし、意見を募った。その結果、最も得票数の多かったものは「時計塔」で、続いて「白いジャングルジム」や「校歌の碑」、「校門」などが多かったという。それを受け、学校生活において実用性や有用性のある時計塔と白いジャングルジムの2つを選出し、移設を求め教育委員会に要望提案書を提出。しかし、老朽化や設置場所の問題で断られてしまった。教育長への直談判なども試み、約2年間の交渉の結果、新校の正門右手にある駐車場への移設が決まった。「何度も断られ、交渉を重ねてきたが、まずは時計塔の移設を決めることができた。本来は新校の開校の際に移設完了していたかったが、だいぶ時間がかかってしまった」と卒業生で元城小学校閉校委員会歴史保存部会の鈴木愛彦(なるひこ)さん。白いジャングルジムは現在も話を進めている最中だという。
1959(昭和34)年の卒業記念品として設置された時計塔。文字盤には「SEIKO」の文字があり、修理に関して同社に問い合わせたところ、グループ会社のセイコータイムシステムから「いい話なのでぜひ協力させてほしい」という回答をもらった。PTA積立金や寄付金などを集め修理を依頼。今まで校舎から電源を供給し、学校のチャイムなどと連動していたが、太陽光発電のソーラーパネルを積み、FM波で時刻合わせをする自立式に変更。リチウムイオンバッテリーも搭載し、太陽の光がなくても15年動く仕組みでメンテナンスフリーな設計だという。設置完了後には担当者から「製品に込められた思いを考えさせられる案件だった。私たちにとって今まで一番やってよかった仕事になった」との言葉をもらい、同社のパンフレットでも紹介されたという。
「今の20代や30代の若者たちが同窓会をする時に、母校がないというのは悲しいはず。何か残してあげたいという気持ちで頑張ってきた」と鈴木さん。「時計塔は学校生活で毎日目にするもので、6年間一緒に時を歩んできたもの。卒業生たちにとっては印象深いモニュメント。新校でも、9年間の学校生活においても子どもたちにとって役立つものになると思う」とも。
「開校後、グラウンドの工事なども続いていて、時計塔の移設には時間がかかってしまったが、安全性を考慮しながら景観にマッチするような場所に設置できた」と浜松中部学園校長の原田哲良さん。「地域の人たちの『歴史を語るものを残してほしい』という思いが実現した。校門の右手にあるので、子どもたちには登下校の際に見てもらえる位置。地域の人たちもぜひ見に来てもらえたら」とも。