浜松・西山町の日本料理店「懐石 和招」(浜松市西区西山町、TEL 053-485-8604)が12月1日、30周年を迎えた。
店舗面積は約35坪。テーブル20席を用意し、3部屋の小部屋に別れる。中廊下や中庭が望める席もある純和風で静かな店内。「バランスのとれた美しい日本食」をテーマに、懐石コースを提供。地元で採れた野菜や魚介類を使い、素材の味を生かしたシンプルな調理を心がける。茶懐石を基準に、濃い味の料理の後には舌休めの料理を出すなど、組み合わせにも配慮。コースの最後には抹茶を出し、すべてを食べ終わった後に「おいしかった」といってもらえる料理を目指して提供しているという。
「料理人を目指したらどうか」という先輩のアドバイスや当時放送されていたドラマ「前略おふくろ様」に憧れていたことから、料理人を目指した店主の宮澤俊英さん。舘山寺のホテルで働いていた時、料理長から大阪の料亭で修業をしないかと声を掛けられチャンスが訪れた。家族を浜松において大阪や京都の料亭やホテルで約1年半修業。早朝から晩まで休みなく働く現場に耐えきれず夜逃げをする同僚がいた中、修業を続けたことが現在の基盤となっているという。
その後、浜松に戻りホテルで料理人として勤務。30歳の節目に、個人の意見が浸透しにくい「会社」という枠組みの中でなく、独立して店を持とうと決意し、佐鳴台のテナントで同店を開業。8年間続けた後、現在の西山町に店を構えた。当時は、自宅と店の借金や子どもを育てる責任感が重なり、まぶたのけいれんや手の震えが止まらない日もあったという。
「一日いくら稼いだか気にせず営業したくても、数字を気にせずにはいられない現実があった」と宮澤さん。「自分の考えるベストな料理を食べてもらいたい」という理想と、「客に合わせた料理を提供するかどうか」という考えの間で悩まされてきたという。家計が厳しい時にはアルバイトをしたこともあり苦労した時期も多かったが、客も自分も喜ぶような店作りを意識して営業を続けてきたという。「街中に出店した方がいい」という客の声や「一品料理もだしたらどうか」という意見もある中、宮澤さんは一度自分が決めたことを曲げず、同所でコース料理だけを提供するという初志を貫き通してきた。
「長年続けていると、客の成長も見ることができてうれしい。年に1度でも来てもらえて、『最近どう』と声を掛け合えるような人間関係をつくってきた」と宮澤さん。「5年以内に90パーセントが廃業すると言われた飲食業を30年間続けてこられた。若いころは覚えた技術を見せつけたいと考えていたが、今この歳になって角が取れてきたと思っている。これからも日本料理の基本を大切に、本当においしい料理を提供していく。今後20年、80代になってもこの店を続けていけたら」と意気込む。
営業時間は、11時30分~14時、18時~21時。