老舗菓子店「入河屋」(浜松市浜名区三ヶ日町下尾奈、TEL 053-525-0902)が11月、創業140周年を迎えた。
創業は1885(明治18)年。京都で流行していた菓子作りの技術を地元でも取り入れたいと考えた初代店主が、当初はまんじゅうやだんごなどの素朴な和菓子を中心に製造。引き出物用に色染めしたまんじゅうを作るなど、器用な手仕事が評判を呼んだ。その後は時代に合わせて商品の幅を広げ、戦後は和洋双方の菓子を取り扱う体制へと発展。現在の店舗の基礎となる設備や商品体系が整い、地域に根付く菓子店として評価を高めていった。
看板商品の一つ「みかん最中」は1954(昭和29)年に誕生した。三ヶ日町はみかんの産地だが、当時は収穫期以外に土産として持ち帰れる名産品がなかったため、年間を通して三ヶ日らしさを表現できる銘菓を目指し、同商品を開発した。現在も定番商品として販売を続け、遠方からも求める客が訪れる。
2016(平成28)年には現店主の松嵜善治郎さんがベーカリー部門を立ち上げた。和菓子作りの中で長く減農薬の小豆を使ってきた背景もあり、この頃から自然素材への意識がさらに強くなったという。「菓子を作っている中で、素材に含まれるものが身体に与える影響を意識するようになった。より安心して食べられる物を届ける姿勢が自分たちの責任と感じた」と松嵜さん。「健康応援パン」と名付け、地元食材やオーガニック食材を使った商品を展開している。
2023年には「自然との調和を大切にした食・衣・住の空間」を掲げた複合施設「乎那の邑 美と善(おなのむら びとぜん)」を開設。施設内で地元食材を使ったカフェを運営するなど、健康をテーマにしたライフスタイルの提案を広げている。
同店では現在、創業記念の企画「140周年祭」を開催している。紅葉とみかん収穫の時期で来客が増えるタイミングに合わせて毎年行っている恒例行事で、80周年・100周年時の記録も残る。食券などが当たる抽選を行うなど、来店客に日頃の感謝を伝えている。
松嵜さんは「代々の店主が目の前の仕事と真面目に向き合ってきた結果が140年。ここまで続けられたのは、『御用達の店』として使っていただいた地元の方のおかげ」と話す。「店名には『河の流れのようにお客さんが入ってくる店』という願いが込められている。これからも、この地域にあって良かったと思ってもらえる店でありたい」と笑顔を見せる。
営業時間は9時~18時。火・水曜定休。140周年祭は12月2日まで。