
シリーズ第5回は機械製造販売の「丸大」(浜松市中央区有玉北町、TEL 053-433-1331)。従業員4人の零細企業ながら卓越した超硬刃物の開発・製造技術は世界的に評価が高い。加工が難しい竹の切削に優れ、独自開発の竹粉製造機は竹材の処理や放置竹林対策で大きな成果を挙げる。
「ここを見てください」。社長の大石誠一さんが手にしているのは直径約50センチの鋼鉄製の丸鋸。指さす鉄板の表面に目を凝らすと、同心円状に40本ほどの溝が刻まれている。「この溝は1本1本、深さも幅もそれぞれ変えてあるんです」。
丸鋸の刃先はダイヤモンドの次に硬いと言われるタングステンカーバイトが主成分の「超硬」という金属。円盤状の鉄板に「超硬」を取り付けるには溶かした合金を接着剤にする「ロー付け」が必要だが、その際に生じる熱や丸鋸を高速回転させる際の摩擦熱で本体の鉄板がゆがんでしまうことがある。どうすれば鉄板の温度を下げられるのか。車好きの大石さんがヒントを得たのが温度差に強い愛車「フォルクスワーゲン」の空冷エンジンだ。
「鉄板に溝を刻むことで鉄板の表面積は大きく増える。空気に触れる面積が増えれば鉄板の温度を下げることができる」(大石さん)。熱による膨張や遠心力によるゆがみがなければ、より硬い「超硬」の刃先を取り付けることができ、耐久性に優れた超硬刃物が現実のものとなる。大石さんは溝の深さや幅、本数について試行錯誤を重ね、徹底的にデータを集めた。

その試みに注目したのが名古屋大学大学院の木村志郎名誉教授だ。「詳しい話を聞きたい。大学に来ませんか」。当時、同業他社は大石さんの発想に冷ややかだった。木村名誉教授は大石さんを研究室に招き、ともに性能試験を繰り返した。1999(平成11)年、2人はその成果をまとめ、フランスで開催された木材の機械加工などに関する世界最高峰の国際学術セミナーで「超耐熱丸鋸」として共同発表。大石さんは「現場でやってきたことが理論的にも間違っていないと実証された」と振り返る。
大石さんは69(昭和44)年に浜松工業高校を卒業、父辰雄さんが創業した「丸大鉄工」に就職した。幼いころからものづくりに興味があり、小学生になると実家の工場で旋盤や溶接機に触れていたという。大石さんが働き始めたころの「丸大鉄工」は鉄骨建築が中心。誠心誠意、見積書を作っても顧客が関心を持つのは価格が安いかどうか、だけ。「おれは自分が得意なものづくりで勝負したい」。悩んだ末に大石さんが取り組んだのが超硬刃物の開発・製造だった。刃物の切れ味は使えばわかる。仕事の良し悪しがそのまま顧客に伝わる。
浜松は天竜地区を中心に林業が盛んで、明治初期から近代的な製材業が発展。それに伴って刃物産業も活発になり、09(明治42)年には製材業の拠点だった今の浜松市中央区中野町で「天龍鉄工合資」(現・天竜製鋸、袋井市浅羽)が創業した。当時、丸鋸は全て海外からの輸入品だったが、同社は22(大正11)年に日本初の国産丸鋸の製造に成功。28(昭和3)年には庄田鉄工所(現・SHODA、浜松市浜名区新都田1)が丸鋸の刃の高さと角度を自由に変えられる「万能昇降傾斜盤」を開発し、木工刃物工業は木工機械工業へと大きく展開していく。
超硬刃物を使えば、木材に限らず石材や樹脂、鉄でも切削できる。丸鋸の開発・製造に活路を見出した大石さんが注目した素材は「竹」。林業関係者からは「竹を切ると刃がもたない」「切った竹の処理はどうすればいいのか」との声が聞こえてきた。

竹は水や養分の通り道となっている道管篩管の束(維管束)が外側に密集している。その繊維は針状で極めて硬く、刃物で切ろうとするとやっかいな難敵だ。大石さんは木村名誉教授との共同研究から210ミリの小さな鋸でなめらかに竹が切断できる「精密青竹切断機」を開発。2000(平成12)年に英国オックスフォード大学で開かれた国際学術セミナーで発表し、大きな反響を呼ぶ。さらに翌年、5本~130本の刃で竹を縦にスライスする技術を生かし、生竹を常温のままで針状の繊維がない5マイクロメートルの微細な粉末(竹パウダー)に加工する「常温生竹微粉末製造機」の開発にも成功する。本体にパンダの顔をあしらい、通称「PANDA」。
「PANDA」で加工された竹パウダーは食物繊維がレタスの80倍と言われ、針状繊維がないため食用にできる。常温加工のため熱に弱い乳酸菌が生きた状態で含まれ、家畜用飼料としても活用できる。アドベンチャーワールド(和歌山県)で飼育されていたジャイアントパンダ「永明」も23年に中国に返還されるまで「丸大」から購入した竹粉を団子状にしたエサを食べていた。
運送事業や産業廃棄物処理などを手掛ける「日本物流」(藤枝市)のアグリ事業部長、竹本忠重さんは3、4年前、新たな事業展開を模索する中で「PANDA」と出会った。「チクチクが残らないパウダーができることに驚いた」と竹本さん。「これを活用すれば放置竹林解消の出口戦略になる」。

同社はさっそく「PANDA」を導入。当初は竹由来の土壌改良剤や肥料・飼料の製造を考えていたが、竹本さんは猫用トイレ(猫砂)にも使えるのでは、と思いついた。竹の消臭・抗菌作用に茶葉のカテキン効果を加えた「The サスタケナブル!放置竹林の竹を活用した猫砂の開発~愛猫から地域を変えるプロジェクト」は25年度「静岡県SDGsビジネスアワード」優秀賞を受賞。竹本さんは大石さんを「竹について一から教えてくれる先生」と言う。
20年度「浜松ものづくりマイスター」に認定された大石さんはものづくりの原点について「『なぜ?』と疑うこと。まず作ってみて、常に『これでいいのか』と自問しながら自分が作ったものに執着し続ける」と話す。今は特許技術の海外移転も視野に世界最大の竹資源を持つインドやタイ、ラオスなど東南アジア各国での竹材の有効活用にも本腰を入れる。環境ビジネスを超えた世界規模の社会貢献だ。独自技術で超硬刃物開発から竹材加工まで常に新しい可能性を開いてきた「丸大」。「浜松でたいせつにしたい会社」である。
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