特集

【シリーズ:浜松でたいせつにしたい会社】
20周年迎えた「ぬくもり工房」 企画力と販売力で「遠州織物」の知名度アップ

 浜松市内の事業所数は約3万5,000と県内1位。スズキ、ヤマハなど大企業だけでなく、スタートアップを含む数多くの中小・零細企業が浜松経済の屋台骨を支えている。浜松経済新聞は小さくてもきらりと光る企業や事業所を「浜松でたいせつにしたい会社」としてシリーズで紹介する。

 第1回は今年創業20周年を迎えた遠州綿紬(つむぎ)の企画販売「ぬくもり工房」(浜松市浜名区染地台、TEL 053-545-6491)。伝統的な遠州縞を復活させ、雑貨・土産品・ギフトなどに注力した独自のブランディング・販売戦略で「遠州綿紬」の名前を一躍全国区にした。

 「遠州綿紬は遠州織物全体の中でごく一部。しかし、遠州綿紬が注目されることで遠州織物全体の知名度がアップした」-。遠州織物工業協同組合(浜松市中央区山下町)で理事・事務局長を務める松尾耕作さんは指摘する。松尾さんによると、「ぬくもり工房」が優れているのは企画力と販売力。「この業界にはまだまだ昔ながらの販売ルートが残っている。ぬくもり工房は従来のやり方にとらわれず、独自の企画力で新たな販路を開拓した」(松尾さん)。

 遠州綿紬と言えば、多彩な縞柄に温かく柔らかな肌当たり、吸水性の良さが特長。かつては農家の普段着用の生地として織られていた。だが、産地としてこれまでその魅力を十分発信してきたとは言いがたい。

 同社社長の大高旭さんは祖父が興した織物問屋から独立。2006年に「ぬくもり工房」を創業し、真っ先に取り組んだのがブランド化戦略だった。「特徴的な生地を生かした商品を自分たちで生み出し、お客様に届けたいと思った」(大高さん)。

 試行錯誤の末にオリジナルブランド「つむぐ」を立ち上げ。「人との出会いをつむぎ、受け継いだ伝統を次の世代につむぐ」(同社ホームページ)との思いを込め、シンボルマークの糸車と遠州灘の波をイメージしたタグデザインを採用した。商品も遠州縞が生かせ、現代の生活にもなじむ和雑貨や土産品に特化した。

 独自の販売ルートとして高速道路サービスエリアや百貨店、ホテルなど人が集まる場所にアンテナショップを開設。全国各地の催事にも積極的に出展した。浜松駅ビル・メイワンなどでぬくもり工房とコラボレーションする書店チェーン「谷島屋」(浜松市中央区連尺町)の営業部長、野尻真さんは「書店は地域文化のハブ的な存在。(アンテナショップを通して)遠州綿紬との予期せぬ出会いにつながった」と話す。

 星野リゾート(長野県軽井沢町)が経営する浜松・舘山寺温泉の高級ホテル「界遠州」に遠州綿紬のアイテムを取り入れた「ご当地部屋」をプロデュースしたことも知名度向上に貢献した。「ぬくもり工房」の20255月期の売上高は12000万円と、この20年で4倍に成長した。

 とはいえ、地場産業としての遠州織物を取り巻く環境は厳しい。気候温暖な遠州地方は昔から綿の三大産地の一つとして知られ、大正時代以降は後のトヨタ自動車(愛知県豊田市)やスズキ(浜松市中央区高塚町)が開発した力織機(りきしょっき)の登場で全国有数の織物産地に成長した。

 だが、1990年代に入ると海外製品に押されて生産量は減少。2020年代初頭のコロナ禍が織屋廃業の流れに拍車をかけた。担い手の高齢化も深刻で、1960年代前半に3,000軒以上と言われた織屋も現在はわずか80軒という。

 産地復活を目指し、大高さんが期待をかけるのが「織機の集約化」と「産業観光」だ。遠州綿紬を織り上げるのは昔ながらの「シャトル織機」。時間をかけて丁寧に織っていくことで、最新式の織機では生み出せない、ゆったりした柔らかな風合いを実現している。非効率で旧式な織機でも12か所の大工場に集約し、分業化した作業を一貫して行えば大幅なコスト削減になる。

 一方の「産業観光」は遠州綿紬の歴史や背景を伝えつつ昔ながらの機織り現場を見学・体験できる一種のテーマパーク。大高さんは開設場所として舘山寺温泉などを想定する。「生産現場をエンターテインメント化することで、多くの人に遠州綿紬に興味を持ってもらいたい。後継者の発掘・育成にもつながる」と大高さん。遠州織物工業協組の松尾さんも「産業観光は面白い試みで産地にとって必要な挑戦。行政とともに実現を目指したい」と話す。

 大高さんは小学生を対象にしたキャリア教育にも力を入れ、遠州綿紬を家庭科の教材として提供することで児童生徒にその歴史や由来を伝えている。そこには、大高さんならではの強いこだわりがある。

 浜松市浜名区三ヶ日町にある初生衣(うぶぎぬ)神社は七夕の織姫を祭る、遠州織物発祥の地。平安時代末期から神にささげる衣服とされる「御衣(おんぞ)」を伊勢神宮に奉献してきた。

 「ぬくもり工房」のロゴマークも初生衣神社の鳥居がモチーフ。大高さんら同社スタッフは今年も515日に「おんぞ奉献団」として同神宮に参拝した。

 大高さんは「遠州織物・遠州綿紬は全国の織物産地の中でも珍しく神様とつながりがある織物。私たちも強い誇りを持っている。この伝統を受け継ぎ、積極的なチャレンジを続けることで産地の継続と発展はもちろん、これまで以上に地元の人に支持されるブランドに育てていきたい」と話す。

 5月下旬には、初生衣神社の本殿と、隣接する神庫の屋根の銅板が盗まれる事件が発覚。大高さんは「本当に悲しくなる」と話し、ぬくもり工房として支援できるよう動いていくという。

 伝統を大切にしながら独自の発想で挑戦を続ける「ぬくもり工房」。その企画力と販売力で遠州織物復活の先陣を切る。これからも「浜松でたいせつにしたい会社」である。

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース